本研究の目的は、被験者が同時に並行して作業をおこなっているときの脳活動を計測し、作業の時間経過や困難さによる注意や判断のための認知負荷の違いによる脳活動の変化を評価することであった。被験者の作業として自動車の運転と把持運動課題をとりあげ、パフォーマンスと脳活動を計測した。 被験者の多少の運動にかかわらず脳活動が計測でき近赤外線トポグラフィシステムを使用して、ドライビングシミュレータを運転作業中の被験者の脳活動を計測した。作業中の認知負荷として、ドライビングシミュレータの運転作業中に被験者に認知課題を課し、そのパフォーマンスと脳活動の変化を連続計測した。すべての被験者で、運転時間の経過とともに脳活動が徐々に減少していった。認知課題に正答した被験者では、脳活動の減少が停止した。これに対して、認知課題に正答しなかった被験者では、その間も脳活動が単調に減少し続けた。これらの結果は、同時並行作業中の認知負荷の影響を脳活動の変化として計測できることをしめすものである。 認知負荷課題として、実物および仮想のハサミで紙を切る把持運動負荷を与えて、パフォーマンスと赤外線トポグラフィによる脳活動の変化の連続計測をおこなった。把持運動時間の経過とともに脳活動が徐々に減少することを示した。また、脳活動の減少の程度は、仮想のハサミで紙を切った場合のほうが大きいことを示した。この結果は、把持運動中の脳活動のレベルが感覚フィードバックによって変化し、フィードバックの質が良い場合のほうが、作業時間が経過しても脳活動のレベルが維持されることを示唆するものである。また、非利き手により把持運動をおこなわせると、利き手の場合と比較して、脳活動の減少の程度が少ないことを見いだした。この結果は、認知課題の負荷の程度を脳活動の変化として計測できることを示すものである。
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