本年度は2年にわたる縦断研究を終了した3年目の最終年度にあたる。既に申請した研究計画書に基づき、幼稚園児の共感性を巡る質問紙による調査、および、縦断的に取り組まれた行動観察データが併合され、組織的に検討された。 まず、2004年6月に母親に対して、同年7月に幼稚園教諭に対して実施された質問紙調査により、園児の共感性が測定され、3歳児118名と4歳児168名からのデータが報告された。この質問紙による検討からは、幼児の共感性のとらえ方の評定者間の違いが報告され、3歳から4歳への発達に伴って(母親ではなく)教諭は幼児の共感性を低く報告していることが明らかになった。一方、IRI(対人的反応性指標)をとおして得られた母親の共感性は、園児が3歳の時点から情動的な側面である「共感的配慮」と関連していること、また4歳になると、母親の「共感的配慮」に加えて、認知的な側面である「視点取得」や「空想」とも関連してくることが報告された。この結果からは、情意面での共感性は、むしろ生得的なもの、遺伝的に規定されるものではないかと推測された。 次に、園児の行動は、2004年6月から同年7月に自由遊びの場面(=朝に園児が来園後、自由に対人行動ができる場面)が、2004年9月には実験設定の場面(=クレヨンと画用紙を制限し、中程度のストレスを与えたお絵書き課題の場面)が行動観察された。そして発達的な検討を可能にするために、同様な観察が、2005年6月から同年7月、2005年9月から同年10月にかけてとりおこなわれ、3歳児(2004年入園)75名および4歳児(2004年入園)88名のデータが整理された。 本研究は、上記に示された質問紙による幼稚園教諭や母親が報告する幼稚園児の共感性、さらに母親自身の共感性が、2年間の幼稚園での具体的な縦断観察行動データで裏付けられているのかを検討することを目的としている。現在のところ収集された観察行動データの整理やコード化は完了し、最終分析段階にある。したがって、この共感性発達の詳細な報告は、近刊の研究報告書で明らかにする。
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