記憶と情動の関係への海馬、前頭前野、扁桃体の役割について、その脳部位間の神経解剖的連絡を含めて研究を行った。(1)しかし、海馬-前頭前野路が従来言われていたように一つではなく、海馬腹側と背側を基始とする異なる神経伝達特性のあることが示唆されたため、その確認が必要となった。そして、腹側路の先行伝達が後の背側路伝達を促進し、その順序を入れ替えた場合に腹側路伝達は促進されないこと、腹側と背側路の情報が前頭前野同一領域で可塑的に情報連合をすることを見出した。順序入れ替え不能なこと、海馬腹側破壊後に背側路伝達は残ることから各経路が異なる脳機能を分担していると結論し論文報告を行った。(2)海馬-扁桃体、海馬-前頭前野、扁桃体-前頭前野の神経連絡は主に同側性であり、神経細胞特異的な損傷を示すイボテン酸を脳半球非対称性に注入する時、非損傷側に残るもう一方が各脳領域機能を行動上補償し、領域間の機能的連絡は遮断されることを用い、恐怖条件付けの長期保持機構を解析した。交差と両側と一側の破壊と対照群の計18群の実験を実施し、フリージングという条件付け恐怖反応指標に海馬-扁桃体と前頭前野-扁桃体間の調節が大きく関わることを見出した。また、寡動性がより敏感な反応指標であり、前述した2経路間の調節結果が、両側の扁桃体間の神経回路によって経日的に増強されることを見出し論文投稿準備中である。(3)サルで用いられる作業記憶課題に準じ、二つのレバーと二つのランプを用いてラットへ遅延見本併せ課題を試験した。しかし、個体によって運動記憶性反応が認められたため、3つのパネルを準備し"|"と"-"の遅延見本併せ課題試験を新たに開発し、その遂行可能性を試験した。ラットは図形を用いる遅延見本併せ課題がほぼできないとされているが、驚いたことにこの課題の遂行は可能だった。更に検討を進め、(2)の破壊手順を用いて研究を推進する。
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