本研究は、幼年造形教育学を中核に保育内容学を再検討し、それと平行して、創造性教育を中核にしたイタリアのレッジョ・エミリア市の保育実践の受容による理論の統合を論考するものである。本年度の研究実績の概要は、以下の通りである。 研究成果としての第1の論文は、子どもの描画活動における装飾表現の発達について考察すると同時に、保育実践や家庭教育において、描画表現を豊かにするための、適切な援助を検討するものである。我々は、ある子どもの描画活動を分析し、人物画に見られる装飾表現の発達過程を明らかにした。さらに、その発達は子どもたちの経験によることが確認できた。子どもは、新しい経験により新たな表現を獲得し、描きたいと思う経験に応じ、異なる表現を選択する。したがって、豊かな経験と装飾に関する示唆を多く与えることが、重要である。そのことにより、人物表現のみならず、その他の造形活動においても、子どもたちの表現は豊かになる。今後の課題は、装飾表現の男女差についての検討である。 第2の論文は、レッジョ・エミリア幼児教育を日本に導入する際の問題点と課題について考察するもので、以下のような知見が得られた。第1に、レッジョ・エミリア市の子どもの造形芸術や視覚芸術を、正しく把握しなければならない。第2に、日本の保育に「プロジェクト学習」を位置付け、根本的に保育理念を転換しなければならない。第3に、「プロジェクト学習」の時間を確保するため、習慣的に行われている園行事を精選すべきである。第4に、潤沢な教育資金が必要である。第5に、「アトリエリスタ」を養成する仕組みを作らねばならない。第6に、保育記録の仕方を「ドキュメンテーション方式」に一新すべきである。2008年3月、日本保育学会誌に投稿予定である。
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