今年度は以下の点について取り組んだ。 第一に、1年目および2年目に取り組んできた日本とドイツの初等教育および中等教育における学力向上の理念と政策に関する情報を収集し、分析を行うという作業の補強を行うことであった。今年度はとりわけ、ドイツにおける全日制学校の取り組みを中心に情報収集を行った。PISAショック後のドイツでは、半日制学校から全日制学校への転換が大規模に図られている。ドイツでは、根底には学力向上という理念がありながらも、直接的な学力向上の取り組み以前の課題に直面している。すなわち、移民の増加による言語教育の必要性の増加、離婚や母親の就労にともなう家庭学習への援助の必要性の増加などである。これにより、直接的な学力向上というよりも、むしろ学力向上の基盤となる環境整備に重点を置いていることが明らかとなった。ノルトライン・ヴェストファーレン州では、とりわけ日本の小学校にあたる基礎学校において全日制学校への大規模な取り組みが見られ、一部には民営化している取り組みも見られた。 第二に、日本とドイツの初等教育および中等教育における学力向上の理念と政策を根源的に形づくっている教育文化に焦点を当て、両国の取り組みの特質を明らかにすることであった。この点から見ると、日本とドイツでは社会の中で学校が果たしている役割は大きく異なっていることが明らかとなった。ドイツにおいて全日制学校への転換が図られることにより、日独の相違点は次第に小さくなってきていることを確認することができた。すなわち、社会の中で学校が果たす役割はドイツにおいて急激に増してきており、学力向上においても学校が重要な役割を担いつつあるということである。 以上の2点について研究を進めた。ドイツでは文化高権という州の教育権限が強く、州ごとに多様な取り組みが見られるため、可能な限り多くの州の取り組みを見ていく必要がある。
|