平成18年度には、「地域」という概念を到達度評価論に導入する視点を追究できたことが、理論研究面での一つの成果となった。具体的には、形成と教育の関係、そして教材づくりのプロセスを明確にすることが重要になってくるということである。これらは、地域の人間形成力の消失を進めた1960-70年代の高度経済成長以後の重要な教育課題となるべきものだったのである。全国的な人口移動と地域環境の大きな変動を伴った高度経済成長は、京都府の奥丹後地域では、第一産業から第二次産業へ転換したものの、その勢いは長くは続かず、1963年の豪雪を機に離村が進行し、過疎問題と生活環境の激変に直面するというかたちで現われた。この急速な過疎化の時期に、子どもたちがどのように進路を考え、教師たちがどう対応していったかという問題に関して、聞き取り調査と資料調査を進めることができた。また、同時代にやはり過疎化が進行しながらも、奥丹後と違って教師たちが地域住民の協力をえて廃校になりそうな昼間定時制分校を統合・新設させた同じく京都府の北桑田地域の動向についても聞き取り調査と資料調査を進め、まだ一部だが、論文執筆することができた。さらに、過疎化とは逆に経済成長の波に乗って他府県から中卒労働者を集めた愛知県下の昼間二交代定時制高校についても聞き取り調査と資料調査を進め、この高校に在学した女生徒たちの側からその実際をとらえる論文を執筆した。なお、以上の調査活動のなかで、到達度評価が地域の課題と結びついていたとはいえない面があることも明らかになってきた。次年度は、奥丹後の過疎化のなかでの進路指導状況等について、北桑田地域の昼間定時制分校の統合・新設の動向について、以上の二地域の動向とは対照的な昼間二交代定時制高校の教育実践について論文執筆を進め、そのうえでこれまでの研究全体を教育自治の観点から理論と実践の両面でまとめることにしたい。
|