本年度は、市町村合併をめぐる論議が自治体の構成原理にかかわって住民の中でどう行われているかを、合併計画の進行度合いの異る3つの事例を取り上げて検討するとともに、日本とは異る形で地方自治制度の定着・普及・再編が進行している英国と韓国の現状を分析して、住民の自治力量形成にかかわる学習の組織過程をその内容と方法において考察した。 日本の事例は、町づくり基本条例制定を住民参加でこころみてきた北海道ニセコ町、地域内経済循環に自立の条件を求めている長野県栄村、住民自身の手による財政シミュレーションと地域産業の将来計画をめぐる学習を重ねて住民投票を実現した同県喬木村の3自治体の分析であって、いずれも住民の自主的・主体的な学習活動のもつ重みを生き生きと示すものであるが、今後さらなる分析を行う中で、本研究の課題を深めていきたい。 一方英国では、1992年の地方自治法改正以来の自治体再編が、各地域における自治意識の質と度合いの差によって一律に進行しない問題があり、韓国では、自治体づくりの力が国のリーダーシップと大学の研究およびキリスト教会のボランティア活動の結びつきによって今後どう大きく育つかが問われており、住民による自治体像の形成過程の考察が共通の研究課題となっている。 ここにかかわって、住民の描く自治体像が不確かなまま合併が進行させられようとしている日本の現状を見るに、住民の自治力量の内実が、ある種の課題についての意思表示の次元を超えた生活の砦としての自治体総体の自主設計の力量にほかならないことが明らかになる。次年度の課題の重点はこの実証的検討を深めるところに置かれる。
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