イギリス(スコットランド・イングランド)のいくつかの都市のコネクションズやキャリア・スコットランド(NEET対策を中心とした若者の就業支援組織)等への聞き取りやそこから提供された資料等によって、以下のことが明らかになった。 (1)政策自身も問題にしているとおり、ニートなど雇用への移行にもっとも困難を抱えている層は、社会階層や居住地域などにおいて、不利な背景を持つ若者に集中する傾向があり、社会全体の「社会的排除」の問題と密接に結びついている。 (2)それ故に、英国の若者に対する就業支援政策は、イングランド、スコットランドとも、パーソナル・アドバイザーやキー・ワーカー等の専門職を配置し、一対一対応の徹底した個人ベースのカウンセリング手法を用いた経歴的指導に重点を置く支援を展開している。政策の対象となる年齢層においては、困難層の把握と彼らへのコンタクトはほぼ確実に実行されており、その点わが国の施策をはるかにしのぐきめ細かさを持っている。 (3)しかしながら、雇用政策全体を見れば、規制緩和と市場原理の深化を最も強力に推進してきた国であり、最低賃金制度の廃止や弱体化、不安定雇用の活用を促進する各種の規制緩和など、若者を不安定就労や賃金の低い層といった弱者に仕向ける施策を強力に進めてきた。 (4)若年労働市場では、かつて若者に安定的な雇用への移行を保障してきた熟練工や事務職など中位水準の職種が激減し、付加価値の高い労働力への需要の拡大と劣悪な労働条件の下で単純作業を担う労働力への需要の拡大という二極分化が進んでいる。問題は、単に若者に対する労働需要が落ち込んだという問題にとどまらず、若者にとって仕事への移行のダブルスタンダードとなったともいえる不安定で保障に欠ける劣悪な労働市場が拡大し、そこを経由するルートが、仕事を通じての職業能力や意欲を高めたり、その後の就業行動にプラスの影響を与える方向では機能せず、現状ではむしろマイナスの影響を与えているということである。安定した雇用のルートに乗れず、離職や失業を経験した若者は、不安定な労働市場およびその周辺を、就職、離職、訓練、失業を繰り返しながら、結局はこの不安定な雇用環境から抜け出すことができない可能性が高い。 (5)したがって、労働市場への直接的な介入施策を欠くイギリスの就業支援は、困難層の把握と彼らへの訓練や教育、就職斡旋という点では成果をあげつつも、結局、「回転ドア」と批評されるように、彼らを不安定な雇用環境から離脱させ、安定した雇用へのルートを制度的に保障するには至っていない。
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