研究課題
基盤研究(C)
イギリス(イングランド・スコットランド)の既存の若者調査(「若者コーホート・サーヴェイ」、「労働力調査」等)および、いくつかの都市のコネクションズやキャリア・スコットランド(NEET対策を中心とした若者の就業支援組織)、地方学習・技能協議会(LLSC)等への聞き取りやそこから提供された資料等にもとづき、以下のことを明らかにした。(1)イギリスは、90年代以降、長期の経済成長を持続しているにもかかわらず、若者の就労状況は不安定となっている。労働力調査などによると、若年労働市場が縮小しているのみならず、職種構成において中位水準の職種の落ち込みにより、上位職種と下位職種への二極分化傾向が顕著となっていることが明らかである。のみならず、雇用保障という点で見ても、パートタイム労働や有期雇用など、不安定な雇用形態が90年代を通じて急速に拡大し、その傾向は、若年労働市場において著しい。さらにそれらの労働市場では、訓練や後のキャリアアップにつながるような労働経験を提供する機会に乏しい。(2)「学校から雇用への移行」において危機に直面している若者層は、政策が対象とするNEET(失業者を含む無業者および教育・訓練も受けていない若者)だけでなく、上述の不安定な労働市場に参入した多くの若者の状況も深刻である。雇用保障に欠け訓練機会も提供されない下位職種に就いた若者の多くは、短期の就労、失業、政府の支援する職業訓練を繰り返し経験する傾向にあるとともに、その多くはこの不安定な雇用環境から抜け出せていない。(3)雇用への移行危機に直面している若者の多くは、資格を持たないまま早期に学校を離学する傾向があり、また成績不振や長期欠席・懲戒処分の経験など、学校におけるネガティヴな経歴を持つ傾向がある。(4)と同時に、彼らは家庭的背景や居住地域などにおいて不利な立場に置かれた若者によって占められる傾向がある。また失業や不安定就労に陥った場合、移行を支援する経済的・文化的資源を有する恵まれた家庭出身者である場合は、後に安定的な雇用への移行を果す可能性が高いが、そうでない若者は、職業訓練や就労支援を受けた場合でも困難な状況からの脱却は非常に難しい。「社会的排除」の構図をはっきりと読み取ることができる。(5)イギリスの就労支援政策や教育・訓練政策は、困難層の把握や彼らへの訓練・教育提供、就職斡旋という点で、短期的な数値上の一定の成果をあげつつも、長期的な視点で見ると、不利な立場に置かれた若者を、不安定な雇用環境から脱却させることにおいては、充分な成果を挙げることができていないいくつかの限界が確認できる。
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