本研究課題の成果による主要なものをまとめれば以下の2点となる。 1 教師のライフヒストリーの方法論的検討 教師研究におけるライフヒストリーの方法について日本ばかりでなく海外の動向も検討し、その成果をまとめるとともに、海外の成果を翻訳などにより紹介した。また、近年のライフヒストリーに関する方法論を検討するため、教師研究に限らず、先行研究の検討を行った。とくに教師研究、教育研究においては実証主義的な立場によるライフヒストリー研究が行われてきた。その一方で、近年はとくに社会学において「ライフストーリー」を重視する構築主義的立場が用いられる傾向にある。今後の教育社会学研究における構築主義的な立場の可能性と限界について検討を行い、教育を対象とするライフヒストリー研究の重要性を指摘した。 2 教育改革の教師への影響 教師に対し継続的な調査を行い、現在の教育の市場化を中心とする教育改革が教師に与えた影響について検討を行った。現在の教育改革によって、教師の多忙化はさらに深刻になるとともに、学力低下論に見られるような教育観の転換は教師をとまどわせるとともに、その仕事をさらに複雑なものとしている。教師への調査、インタビューなどにより、その現状を明らかにするとともに、教師が教育改革を所与のものとして受け入れていることを指摘した。つまり、教師にとって教育改革は環境の変化の一つであり、それを無批判に受け入れることで、環境の変化に対処しようとしているのである。本調査は、現在も継続して行っており、これまでの研究成果を含め報告を行う予定である。
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