本研究は、「教育問題」を超えて問題が集積する子どもの指導に、学校や教師がどのような役割を果たすべきかを明らかにしようとした『学校組織の変容と教師役割の再構築』の最終年度に当たる。とりわけ、諸外国から注目されてきたわが国の総合的・包括的教育が、近年の教育改革や学校機能縮小論の中で変容してきている実態を踏まえ、今後の学校・教師のあり方を探ることを目的としていた。 今年度は、(1)問題の集積する子どもの指導についての教師の意識を明らかにすること(2)学校・教師に対する制度改革の実態と、それに対する教師の認識の2点に焦点を当て、(1)(2)を並行しつつ研究を進めた。 (1)においては、アンケート調査(『児童・生徒の諸問題に対処する学者連携に関する研究』)を実施し、またイギリスで、restorative justiceのフォローアップ調査を行った。(2)では、複数の県で教師インタビューを行い、それをもとに、教育委員会を対象とした『教員評価政策に関するアンケート』を実施した。 (1)(2)とも現在まだ分析中で、最終結論を導くには至っていないが、現時点で以下のことが明らかになっている。 第一に、「教育問題」の背後には、子どもの生活総体=家庭での問題が存在しており、教師の指導の領域を超えるものも多いが、欧米のrestorative justiceの取組みように、中間集団の存在・活動がないわが国では、教師は他専門諸機関との連携・協力に関して経験がなく、学校内での単独処理に終始していること。第二に、急激な教員改革が行われた地域では、教師のモチベーションが低下していること。 以上の知見を、イギリスにおけるホリスティックな子どもへのかかわりを視野に入れたdemocratic professionの提起とあわせ、理論的には、専門職としての教師の「専門」内容の再検討と関連してまとめる予定である。
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