研究概要 |
サッチャリズムの教育政策の理論的枠組みを検討しつつ、その実態をいくつかの事例研究という形で検証した。ロンドンのワンズワース区については継続的に調査を行い,あらたに対極的な事例であるハックニー区に関する事例研究資料を集めた。この事例には労働党の教育顧問であったマイケル・バーバーが深くコミットし、ここでの経験が労働党の教育政策に影響を与えたものと考えられる。これについてはさらに検討を加える。 労働党政権の教育政策については、現在の動向をチェックし、それらとサッチャリズムの教育政策との比較検討を行ってきているが、教育投資論(人的資源論)を中核に据えた労働党政権の下では「品質保証国家」の中央集権的性格が一層強くなってきたように思われる。また研究協力者の協力をあおぎ、イギリス社会における犯罪、道徳教育(市民性教育)、教養、高等教育の問題にもアプローチし始めた。 さらに、これらに加えて、メリトクラシー原理を越えるためにマイケル・ヤングが提唱していた社会貢献型起業家学校(School for Social Entrepreneur)に関する資料、関係者へのインタビューなどを開始し、これについては日英教育学会で大田が報告を行った。また同学会では、労働党政権の教育政策について批判を展開しているシャロン・ゲワーツ教授(ロンドン大学キングスカレッジ)を招き、新しい公共性をめぐる論議を行い、大田はその通訳を行った。なお日英教育学会の年報『日英教育研究フォーラム』の巻頭論文として、昨年度から引き続く「教育における<公>と<私>」をめぐる論議に関わって黒崎が寄稿を依頼された(次頁参照)。 一方、日本でも学校運営協議会制度の導入の評価をめぐって論争がおこりつつあり、それについては、日本教育学会で大田が報告を行い、黒崎が総評を加えた。これについては『教育学研究』に掲載される予定である。
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