本研究では、東京・三多摩地区と東北・郡部にある進路多様校の高校3年生を対象に、パネル調査を2年間(2004年9月から2006年8月)にわたって実施した。特に「フリーター」(非正規雇用)となった卒業生の家庭背景や地域環境、学校生活の状況などを把握し、彼らの進路選択と他の生徒のそれを比較し、彼らの生き方や勤労観、人間関係、ライフスタイルなどの特質を詳細に分析した。 まず、1年目の2004年度には、高校在学時の調査を実施した。アンケートでは、非正規雇用への評価や人間関係の理解状況を把握し、すでにアルバイトによって多様な就労経験があることがわかった。また、聞き取り調査によって、進路の決定が偶発的な他者の助言や就職活動での出来事などに影響されやすく、「コンティンジェント」なものであることもわかった。さらに、「フリーター」という言葉の使い方も、自分のアイデンティティに関わる局面では否定的で、友人や先輩などの実態として使用する文脈はポジティブだった。フリーター評価の「ダブルスタンダード」が存在した。 次年度は、同窓会での聞き取りや葉書アンケートを実施した。また、海外研究によって、ライフコース理解の理論的方法的な知見を深めた。 最終年3年目には、卒業生の進路を理解するため、アンケート調査を実施した。回収率は、67%であった。その結果をみると、進学者はそのままだったが、就職者は進路変更する者が全体の約半数おり、フリーターとなる者も増加した。そこで、聞き取り調査を30名に実施した。その結果によれば、高校の進路担当者が「適応的」と評価した進路を選んだ生徒でも、悩みを抱える者があった反面、「不適応的」とされた契約社員などの者でも、地域の仲間関係や仕事への興味などによって意欲的な生活を送る者があった。また、東京ではフリーター圧力が小さいが、東北では、「プータロー」といった社会不適応者のイメージが流通していた。概して、勤労意欲は高く、不安定な仕事からの脱却を求めており、在学時からの「進路規範」は強固に作用していたといえる。
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