平成16年度は、特に法人化後の国立大学の授業料水準に焦点を絞り、研究を進めた。その結果以下の知見が研究から得られた。 標準運営費交付金算定に用いられる授業料は、標準額であり各大学が独自に設定する額ではない。各大学は、授業料を標準額の110%まで自由に設定できるが、標準額上乗せ部分は自己収入を増加させることになる。よってこの算定式には、各大学に授業料値上げのインセンティブが与えられていると解釈することができる。しかし各大学は、授業料を設定する場合、上乗せ部分が、優秀な学生の志望変更や入学変更にどの程度影響を与えるかを考えなければならない。各大学が独自授業料を設定できることは、優秀な学生を失う各大学のリスクばかりでない。 多くの大学が独自収入を増加させようと、授業料を高めに設定すると、いずれ標準額自体も引き上げられやすくなると考えられる。これによってさらに各大学が授業料を高く設定できることになる、という値上げのビシアスサイクルが生ずる可能性がある。 また運営費交付金が削減されると、大学は自己収入を増加させようと、授業料の値上げ策をとり、自己収入が増加すると、運営費交付金が減額される、というこれまたビシアスサイクルが発生する危険がある。いずれのビシアスサイクルも、個々の大学が自己収入の増加を図ろうとすると、他大学も追従し全体に授業料が値上がりしてしまい、国立大学全体または私立大学にも波及し、日本の高等教育費の高騰を招くというジレンマを意味している。
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