本年度の研究では、前年度の研究における戦後10余年間の我が国の音楽科教員養成の分析・考察と同様の観点から、同時期の米国の音楽科教員養成の理念と方法を明らかにし、日米両国の比較を通して、米国からの影響および我が国の特色や問題点について考察した。米国の教員養成の理念は、1940年代に、従来の教科専門教育から、包括的な教職専門教育を重視するものへと大きく変化した。師範学校から発展したティーチャーズ・カレッジや、総合大学、リベラルアーツ・カレッジ、音楽学校で行われていた音楽科教員養成についても、この理念に即した全国基準の確立に向けて努力がなされていた。戦後日本の教員養成は、このような米国の状況から影響を受け、民主主義の原理によって改変されたが、音楽教師の教育には戦前の伝統的な考え方や教授法が根強く残っていた。米国に比べると、日本の音楽科教員養成カリキュラムでは各種専門・教職科目間のバランスが悪く、教職科目が軽視され、実技科目の内容も偏っており、さらに音楽理論や和声などの基礎科目が教育実践的でないという問題があった。また、米国では過去の反省から、すべての音楽教師を大学の音楽教育カリキュラムで養成するよう改変されてきていたのに対し、日本の音楽大学には、かつての米国にように、通常の音楽カリキュラムに教員免許法の最小限の教職単位を加えただけで教師の資格を与えるものがあった。これらの日本の特色については、敗戦当時の人的・物的資源の不足が大きな要因とも言えるが、戦前の伝統が受け継がれている面もあり、今日の音楽科教員養成における様々な問題にも繋がっていると考えられる。
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