本研究の目的は、教員養成の在り方が大いに論議された第二次世界大戦直後の約10年間を、戦後日本の音楽科教員養成成立期と捉え、米国の占領政策、我が国の新たな教員養成政策、及び同時期の米国の音楽科教員養成の理念と方法をあわせた総合的な視点から、米国との比較を通して当時の我が国の音楽科教員養成の特徴を明らかにし、現在の教員養成の在り方を探究するための視点を導き出すことであった。 当時の日本では、新たに開始された教員養成の諸問題を踏まえて、音楽教師に必要な実力基準や大学のカリキュラム試案が提示された。他方、米国においても教員養成の在り方が大幅に見直されていた時期であり、音楽教師の資質や教員養成カリキュラムについての全国レベルの規範が提示された。両者を比較・考察した結果、米国に比べると、我が国の音楽科教員養成の特徴は、教育法科目において音楽教育の原理や理論に対する関心が高い一方、教科専門科目の内容が学校教育実践に直接関係していない点であった。このような日米の違いは、背景にある両国の教員養成理念の違いに起因している。米国の占領政策であった「大学における教員養成」と「開放制」の理念を、日本側が独自の解釈で捉えた結果、音楽科教員養成における教育法科目と教科専門科目の在り方にも影響を及ぼしたと考えらえる。 両科目の内容が、音楽教師としての実践力の育成に繋がりにくいことは、今日の我が国の教員養成においてなお重要な問題である。この問題の発端は、米国からもたらされた教員養成の二大原則に遡ることができるが、当時、同様の問題の解決に尽力していた米国における音楽科教員養成の理念や具体的方策から、現在の問題解決に関わる幾つかの視点が得られた。
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