1990年代の学力論争以後、美術教育における「学力」の問題は、「能力」観の検討へと進んだ。その背景にはPISAの評価フレームワークとしての「コンピテンシー」、学校教育法に示された、知識・技能の習得、それらの活用、意欲(探究)という「学力の3つの要素」などがある。 美術教育における能力観の考察から、美術教育で育成すべき能力のとしてのコンピテンシーが、共生、コミュニケーションの能力に通ずることを確認した。わが国での「コンピテンシー」のとらえ方には、米国流の競争原理を勝ち抜くために知識・技能を活用する実践的遂行能力と、PISAでの知識・技能の活用だけでなく自律や共生、コミュニケーション力を含む能力との二つが混在し、それらが「生きる力」に基づく「学力」とされている。後者のPISA型のコンピテンシーが美術教育の教科の目標にある「感性」とも合致する。 美術教育で養うべき能力に関する日米の意識調査の比較からは、日米ともに美術学習における「努力」と「学校教育」の役割を重視することがわかった。米国人は一般に努力よりも才能を重視するといわれるが、今回の調査では学習の成功要因として才能(talent)を挙げた米国人はごく少数であった。 教科目標については、米国では、美術の活動を楽しむ以外には視覚文化に関わるコミュニケーションを大切にすること、日本では、感性、創造力、活動を楽しむことの3点を重視する傾向が強い。日本人のこの目標観は、現在の学習指導要領の目標が反映されたものといえる。 「生きる力」、「学力」そして「コンピテンシー」の3つの教育理念を、子どもが学習する場面で統合するのが、図画工作・美術科の教科目標に掲げられている「感性」である。
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