まず、先行研究の整理と分析枠組みの研究を行った。先行研究では、ライフヒストリーアプローチに焦点化して検討した。また分析枠組みの研究では、ライフヒストリー、カリキュラム経験、学習記録の3つの視点を設定した。これに基づいて、中学校国語科教諭・遠藤瑛子と高校国語科教諭・荻原伸にインタビューを重ね、ライフヒストリーを構成した。さらに、国語科授業に関するドキュメントを収集し、それぞれのカリキュラム経験を分析した。さらに、中学校教諭・遠藤瑛子の場合、詳細な学習記録があるので、それらも収集整理し、学習記録から遠藤の国語科総合単元学習の特質を分析した。 遠藤瑛子教諭の場合、1990年度の「風-自然とともに生きる」というカリキュラム経験を通して、<<往還するコミュニケーション>>と<<情報力>>を重視する授業スタイルを創り出し、授業スタイルの選択肢を増やしていったことが分かった。また、1985年の単元「写真からことばへ」で意識されていた<<再文脈化>>と、1987年の単元「旅に生きる」で意識されていた<<人間の生き方の認識-夢・希望>>を、1996年の単元「あれから一年 強く生きる」では結びつけたというところに遠藤瑛子の「授業スタイル」のもっとも重要な変容があることが分かった。 荻原伸教諭の場合、教師としてある志向性を持って教職生活に臨み、新任のおよそ十年という時間を経て、その志向性をどのように実践的に具体化していったのか、その力量形成の過程を検討した。志向性とは、例えば、なぜ教師になろうしたのか、教育をどのようにとらえ、生徒との関係をどう結ぼうとするのかなどという方向性を示す概念としておく。そのような教師の志向性のもとに、実践の「テーマ」(<自他問題の探究>など、実践の方向性に関わる概念)と「モチーフ」(<生徒の自己表現>など、実践を方向付けるテーマを具体的な形に実現していく際の媒体の形態)が規定され、具体的な実践が生成される。荻原伸教諭の場合は、次の3つの志向性から実践が生み出されていることが分かった。(1)「ほんまもん」性で自分を試そう、(2)愛と世界平和、(3)関係性と批判的思考の重視→自他問題と学校言説の相対化という実践のテーマ。このように、荻原伸教諭の教職生活の最初十年間の初任期は、こういう志向性に支えられながら、自分の実践テーマを深めていったことが分かった。
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