主要な調における各種古典音律の長3和音の倍音と実音および倍音相互の調和を理論的に考察し、その結果とこれまでの理論的検討を踏まえ、ヤング6分の1音律がピアノ音律として最適であると結論付けた。 さらに、ヤング6分の1音律、ピタゴラス音律、純正律、ヴェルクマイスターIII音律により、(1)カデンツ、(2)旋律、(3)旋律と和音伴奏の3パタンで比較聴取実験を行い、聞き手の好感度を調査した。その結果、平均律とヤング音律はいずれの場合も好感度が高く、上位1・2位を分け合ったが、通常の音楽形態である旋律と和音伴奏のパタン(3)では、ヤング6分の1音律の好感度が若干平均律を上回った。 これを踏まえ、研究室のピアノをヴァロッティ=ヤング音律で調律しつつ、実際にピアノ調律として展開する際の望ましい方法を探った。特にインハーモニシティと如何に折り合いをつけつつ調律曲線を決定するかについて、種々検討の結果、オクターブ伸張を無視することは出来ないが、やや控えめにすることは可能であるとし、この方向でヤング音律をピアノで試行した。最終的に、調律用5度サークル図のCから右回りに6つの調整5度(698セント)、左回りに6つの純正完全5度(702セント)をもつヤング音律が最適であると結論付けた。あわせて、その際のピアノの倍音の現れ方と、各音のピッチを測定し表記した。このピアノの調律曲線はRailsback調律曲線より緩やかなものである。
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