研究計画書に示したように、本研究は、偉大な芸術教育家として知られるヨハネス・イッテンの芸術教育の理念と方法を日本との接点を含めて解明しようとするものである。 本年度は、欧州に現存する未公開のオリジナル資料を調査するとともに、入手困難ないくつかの重要な資料を複写することができた。手書き資料等コピー複写が資料を損なう恐れのあるものは、現地の指示に従い資料をフィルム及びデジタル写真撮影した。また、調査を行なったヨハネス・イッテン財団及び欧州各地の研究者と現地で意見を交換し、最新の研究動向に接した。ベルリンのバウハウス資料館(Bauhaus-Archiv)では、館長及び研究者と最新の研究動向について本研究の内容を中心に意見を交換したところ、私の研究内容が高い評価を受け、バウハウス研究の総本山として知られる同資料館にこれまで執筆してきた拙稿(英訳したもの及びアメリカで発表したものを含む)が正式に保管されることになり、研究交流の成果を得た。海外における調査の内容をふまえ、国内において関連する資料の調査を行なった。本年度に「東北芸術文化学会」において研究成果として「ヨハネス・イッテンの芸術教育と『構成教育大系』」について発表した。昭和初期にバウハウスの教育内容を紹介し、日本のデザイン教育や造形教育に寄与した書籍として知られる『構成教育大系』にみられるイッテンの教育内容がイッテンに直接学んだ自由学園からの留学生の活躍によって紹介されたことはかつて拙稿で明らかにしたが、これに加えて、イッテン・シューレの学生作品の図版が『構成教育大系』に多数含まれていることを本学会発表において具体的に明らかにした。『構成教育大系』からは、イッテンの指導した学生作品図版だけではなく、イッテンの教育理念と方法の一端を読み取ることができた。この発表内容を英訳し、次年度の海外における研究者との意見交換の準備とした。
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