本研究では、偉大な芸術教育家として知られるヨハネス・イッテンについて、欧州に現存する未公開のオリジナル資料を調査するとともに、入手困難ないくつかの重要な資料を複写した。手書き資料等コピー複写が資料を損なう恐れのあるものは、現地の指示に従い資料を写真撮影して調査した。欧州での調査をふまえ、国内に所蔵されている関連資料の調査も行なった。イッテンの芸術学校、イッテン・シューレで行われた竹久夢二や水越松南による墨絵教授について、これまで私は徐々に明らかにしてきた。本研究では、最近発見された、イッテン・シューレの学生たちが夢二の日本画授業で描いた墨絵作品の調査を行うことができ、その詳細が一層明らかとなった。また、我が国における構成教育の礎となった『構成教育大系』とイッテンの芸術教育とのかかわりを具体的に解明した。さらに、未公開のイッテンの手書きの日記帳の中から、日本の禅思想及び墨絵への探究についての記述を見出すとともに、イッテンの芸術教育における墨絵の位置づけを明らかにした。 調査を行ったヨハネス・イッテン財団やバウハウス資料館及び欧州各地の研究者と意見を交換し、バウハウス研究の総本山として知られるバウハウス資料館等に正式に私の研究論文(英訳したもの及びアメリカで発表したもの)が保管されることになった。また、調査の過程で意見交換した現地の研究者からの依頼により、ドイツのハム市、グスタフ・リュプケ美術館の「ヨハネス・イッテン-ヴァシリー・カンディンスキー-パウル・クレー、バウハウスと神秘思想」展覧会関連企画として2005年12月にドイツで行なわれた国際会議に私は招待され、「ヨハネス・イッテンと禅」と題して英語で研究発表を行った。この国際会議では、ベルリンのバウハウス資料館館長をはじめ、欧州の第一線のバウハウス研究者が研究発表を行った。
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