本研究の目的は、知的障害児の手指機能の適切な評価法を作成し、それに基づく特性把握による子どもの手指運動の機能特性に見合った指導法の原理を明らかにすることを目的としている。本年度は、手指運動機能の評価法として、既存の手指運動機能検査法に加えて、手指のおよび手指運動の「確実性」を加えた評価法の作成を試みた。この特性はこれまでの検査法では十分注目されていなかったものである。手指運動の「確実性」の測定として行ったのは、以下の2つの課題である。(1)シール貼り課題 円形のシール3枚を、同じ大きさの円が線画として記してある台紙の貼るという課題である。シールと台紙の線画とのズレと所要時間とを計測する。シールと線画とのズレが「確実性」の指標であり、かかった時間を計ることで、「速さ」も測定できる。(2)はんこ押し課題 上述のシールに代えて円形のはんこを台紙に押すという課題である。はんこ跡と円とのズレが「確実性」の指標であり、かかった時間はやはり「速さ」の指標となり得る。これらの測定を知的障害児・者を対象に行ったところ、彼らの中には確かに時間がかかるという課題遂行の遅い者たちが見られたが、しかし、「確実性」という点では健常者と変わらないという者たちも存在することが示された。このことは、知的障害者の運動能力は全般的に劣るとしてきたこれまでの知的障害者の運動観の変更をせまるもので、これは、こうした「確実性」を測定する課題を行ってはじめて明らかとなったことである。次年度は、やはりこれまでの検査法では十分注目されていない手指の「対象操作性」という特性についての検討を行う予定である。
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