本研究では、まず、手指運動機能の評価法として、既存の手指運動機能検査法に加えて、手指運動の「確実性」を加えた評価法の作成を試みた。手指運動の「確実性」の測定として付け加えたのは、シール貼り課題とはんこ押し課題のふたつである。この2つの課題で、貼るあるいは押す場所からのズレを測定することで、手指運動の「確実性」を測定でき、さらに、遂行にかかった時間を計れば「速さ」も測定できると考えた。これらの測定を知的障害児・者を対象に行ったところ、彼らの中には確かに時間がかかるという課題遂行の遅い者たちが見られたが、しかし、「確実性」という点では健常者と変わらないという者たちも存在することが示された。このことは、知的障害者の運動能力は全般的に劣るとしてきたこれまでの知的障害者の運動観の変更をせまるものと言え、こうした「確実性」を測定する課題を手指運動機能の評価法に組み込む必要性が示されたと言えよう。次に、具体的な手指運動として、箸及びスプーンという食器操作と、ひも結びを取り上げ、知的障害者の困難の実態および指導法の原理の追求を試みた。その結果、箸とスプーン操作では、一般に前者の方でより困難が明確で、それは、箸操作では丁寧さがより要求されることにあると考えられた。その中で、ダウン症者は、スプーン操作の困難は明らかであったが、箸操作にかんしてはそれほどでもないことが示された。これは、一般的傾向とは逆で、ダウン症者について最近言われている運動行為の特徴と関係する興味深い知見である。一方、ひも結びに関しては、結い形が決まっても、そこに至る方法がきわめて多いという、いわば自由度の多さがその困難と関連していることが示唆された。しかし、運動面や空間に関する見通しをつけるような補助をし、結果的に自由度が減少するような指導を行えば、その困難は減ずることが示された。
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