研究概要 |
(1)高機能自閉症児の自己に関する研究は,その多くが記憶課題を用いて、本来、自己が確立していることで健常児者にみられる効果(例えば、自己照合効果)が自閉症児ではみられない(十一・神尾、1998)といったデータから、自閉症児の自己の障害を論じているものがほとんどであることが明らかにされた。つまり、自閉症児の自己認識そのものを検討した研究はほとんどみられないということである。数少ない自己認識の研究としては、Hobson & Lee(1998)の研究が挙げられる。これは、Damon & Hart(1988)の半構造面接を用いて、精神年齢平均6歳の自閉症児者の自己認識を検討している。一方、Damon & Hartの研究は、その分類基準が曖昧で、重複するカテゴリーも多いなど、方法論的な不備も指摘されている(例えば、佐久間ら、2000)。高機能自閉症児の自己を検討する新たな方法論の創出が求められていることが明らかにされた。 (2)以上の方法論の検討をもとに、小・中学生の高機能自閉症児と健常児の自己認識について、TST(Twenty Statements Test)を施行し、対人的カテゴリーを中心に分析した。すると、対人的カテゴリーの記述数は、健常児と比較して高機能自閉症児が有意に少ないこと、一方、1個でも対人的カテゴリーを記述した人数を指標に高機能自閉症児を小学校4年以下と5年以上でわけて比較すると、5年以上の方がその人数が有意に多いことが示された。これは、高機能自閉症児の自己認識における対人的カテゴリーが健常児より少ないという、従来から指摘されてきた障害特有の特徴の存在とともに、同じ高機能自閉症児においても、小学校5年生を超えると、対人的カテゴリーを記述する者が増えるという発達的変化が存在することも示唆される結果となった。
|