感化教育における障害児問題の展開の一斑を明らかにするために、以下の3つの研究に取り組んだ。第1に感化院長会議録や建議などを元にした、感化教育における障害児(「低能児」「低格児」)問題の展開に関する通史的把握、第2に感化教育会や感化教育改正期成同盟などの活動の中心を担い、精神科医でもあった土山学園長池田千年の論文目録作成と分析、第3に、兵庫県立明石学園(土山学園の後継)所蔵資料・史料の整理・分類および資料目録・解題作成を行った。具体的には以下のようである。 1)感化院長会議録などから看取される感化教育における「低能児」「低格児」問題の展開 この問題は、(1)不就学や中途退学者の多い不良少年の教育問題に内在する問題であり、(2)感化教育の義務教育化(文部省移管、義務教育修了認定問題)の要求が高揚する1920年代後半より、感化教育会において、感化教育とは別の事業(児童鑑別による感化教育からの分離要求)の振興を求める立場と入所児童の実態を鑑み感化教育において「低能児」「低格児」への適切な対処を講じるべきであるという立場とに大別されたこと、(3)少年教護法制定以降は、少年教護協会においては児童鑑別の徹底(少年教護院とは別の組織・場所として児童鑑別所を設置、鑑別後の適切な処遇先の確保)が要求されたこと、などを明らかにした。この成果は、感化教育史研究会にて報告した(2006年8月31日)。 2)池田千年の論文について「低能児」「低格児」問題に着目して分析した結果、(1)精神医学的な立場からの特殊児童問題に関するもの(主として、熊谷保護学校から土山学園園医時代にかけて)、(2)感化教育の対象児を「護教児」、感化教育を「保護教育」としてとらえ、呉秀三(精神医学者)や早崎春香(初代土山学園長)らから薫陶を受けつつ独自の見解を有していたことを明らかにした。 3)兵庫県立明石学園資料調査 二井仁美氏(大阪教育大学)、石原剛志(長野大学)、松浦崇氏(名古屋大学大学院研究生)との共同作業により、兵庫県立明石学園所蔵の諸資料・史料調査を実施した。所蔵物は、大正期から最近の、ものまで概ね良好な状態で保管されており、それらを(1)写真類(2)著書(3)学園刊行物(3)アルバム類(4)他施設や行政機関の刊行物(5)児童記録(6)教務日誌(7)経理帳簿(8)各寮日誌などに大別された。これら資料整理の成果について、(1)仮目録(2)史料解題を作成し、学園に納めた。
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