研究概要 |
本科研費2年目に当たる前年度においてくりこみ群の方法を用いてシェルピンスキー・ガスケット上の自己反発および自己吸引ウォークの漸近的性質を得た.さらにゲッチンゲン大学のデンカー氏との共同研究によって,くりこみ群の方法を用いてこれらのウォークの族について再帰性を得ていたが,本年度はその発展・定量的深化として,平均再帰時間を調べた.その結果1次元格子(整数上)の自己反発および自己吸引ウォークの場合は平均再帰時間は無限大になることが分かった.自己吸引ウォークは元々いた場所に引き寄せる効果が系を定義する確率の中に含まれているが,それにもかかわらず出発点への帰還がたいへん遅いことを意味しており,常識から簡単に予想することのできない興味深い結果を得たことになる.これを拡張してシェルピンスキー・ガスケット上で同様の問題を検討しつつあったが,問題の困難さだけではなく,デンカー氏の健康上の理由もあって,本年度は中間的な結果にとどまった. 本年度は共同研究者の健康だけではなく,デスクトップパソコンが壊れて本年度の科研費でパソコンを購入したなど,研究体制の再整備の必要に迫られる状況であり,準備期間と位置づけて来年度に備えたい.そのような逆境の中でも,フラクタルの確率論的研究の大家のK.Falconer氏の名著Fractal Geometryを岡山大学の村田浄信氏と共訳し,和書名「フラクタル幾何学」として出版することができた.日本におけるフラクタル研究の今後に一定の貢献をしえたものと自負する.
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