研究概要 |
くりこみ群とレース展開は,統計力学における臨界現象の厳密な解析に欠くことのできない武器である.この研究では,具体的なモデルの解析を通じて,この2つの方法の深化を目指している.今年度は以下の3点に注力し,そのうちの(1)(2)についてはなかなかの成果を得た. (1)自己回避ランダムウォーク,パーコレーションなどの,臨界点での2点関数を考える.系の次元が高い場合,これは単純ランダムウォークと同じ漸近形を示すと信じられていたが,その証拠は部分的なものであった(spread-out modelに対する,私とHofstad, Slade氏の共同研究).今回,以前の共同研究とは違った視点からこの問題に取り組み,自己回避ランダムウォークについては予想される最良の結果(5次元以上の最近接モデルが単純ランダムウォークと同じ漸近形を示す)を証明できた.論文にもまとめ終わり,3月末までに投稿予定である.証明にはレース展開を古典的な「分数べき微分の理論」と組み合わせたものを用いた. (2)階層的自己回避ランダムウォークの臨界現象をくりこみ群を用いてほぼ完全に解明した.これは元東工大大学院生の大野正雄氏との共同研究で,現在,論文執筆中である. (3)ランダムクラスターモデル(p-qモデル)に対するレース展開の適用については,レース展開そのものは大体,完成したが,その解析に不可欠の相関不等式が証明できず,研究が難渋している(東工大大学院生の為永恵太氏との共同研究). なお,これらの研究に密接に関連する題材として,イジングモデルの臨界現象に関する本を学習院大学の田崎晴明氏と執筆中であるが,こちらの方もかなり進捗したことを付記する.
|