研究概要 |
無限グラフ上のラプラス作用素のスペクトルとグラフの幾何構造の特徴付けに関する研究には,多様体における結果の離散類似をグラフ上で見出すという方向と,離散故の独自の性質を見出すという方向がある.本年の研究は,離散独自の性質に重点をおいたものが主である.まずはグラフの変形操作によるスペクトルの遺伝性について調べた.たとえば線グラフへの変形におけるスペクトルの遺伝の仕方は,有限グラフ・無限グラフともに知られているが,最近導入された変形操作であるパラライングラフへの変形によってどのようにスペクトルが遺伝するかについては,無限グラフに関してある程度得られているだけであった.その類推から有限グラフの結果も予想されてはいたが,今回その類推が正しいこと,および,さらに有限グラフならではの詳細な性質が解明された.次に行ったのは「有限グラフにおいてはスペクトルの下端と上端の和が2であること」と「グラフが2部グラフであること」の同値性に関するものである.この同値性は,有限グラフでは成り立つものの,無限グラフでは一般的には成立はしない.どのくらいの無限グラフの族に対して「スペクトルの下端と上端の和が2」が成立するのかという問題を設定していたが,その族の特徴付けに関して部分的結果が得られた.一方,多様体との類似性を意識した研究としては,グラフの状態密度関数などの詳しいスペクトル構造の情報を調べるものを計画したが,その研究の途上で,普遍アーベル被覆グラフのスペクトル構造,とくに固有値の存在・非存在に関して,多様体における技術の移植ではない新たな方向性が打ち出された.
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