研究概要 |
無限グラフ,とくに有限グラフの被覆グラフとして表現されるもの,でのラプラシアンのスペクトル構造は,商グラフである有限グラフの幾何構造と被覆変換群の性質で制御される.前年度から引き続き完全解決を目指した「Full Spectrum Property」(スペクトル集合が単一閉区問から成る)と「No Eigenvalue Property」(スペクトルには固有値がない)に関しては,未完成とはいえ多少の発展には成功した.その中で,有限グラフの幾何構造とスペクトルについての詳細な解析が鍵を握ると実感したので,有限グラフの幾何とスペクトル,より具体的には,有限グラフ上の酔歩の被覆時間(ある頂点から出発した酔歩が全頂点を訪ずれるまでの時間の期待値)とグラフのサイクルの分布などの幾何構造の関係についての解析も行った.現在のところ顕著な結果はないが,それはその関係の解析の難しさによるもので,いわば,想像よりも繊細であることを様々な例を通して表面化したことが今後に繋がる成果ともいえる.同時に,1次元格子という単純な無限グラフにおいて,有限個のポテンシャルを与えたシュレディンガー作用素を考え,そこでの有限多重度の固有値の存在という,スペクトルとしての"繊細"な性質にも注目してみた.この方向は金沢大学の小栗栖氏らとの共同研究であるが,成果としては,ポテンシャルの個数とその大きさで現われる離散スペクトルが制御できること,同時に区間をなす本質的スペクトルの集合中の有限多重度の固有値の有無が無限個のポテンシャルによって制御可能,などを得た. 無限グラフのスペクトル幾何を軸として,有限グラフのスペクトル幾何や酔歩の挙動,ポテンシャルや磁場の付いた一般の作用素のスペクトル解析について現在も研究を継続している.
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