研究概要 |
無限グラフ上のラプラス作用素のスペクトルとグラフの幾何構造の特徴付けに関する研究として,多様体における結果の離散類似をグラフの上で見出すという方向と,離散故の独自の性質からアプローチする方向があるが,本研究では,離散独自の性質に重点をおいて遂行した.主な結果としては,(1)与えられたグラフに対してパラライングラフへの変形を行なったときのスペクトルの遺伝性および特異性;(2)無限グラフにおける「本質的2部グラフ性」と「スペクトルのある種の対称性」の同値性;(3)有限グラフが2-因子を持つとき,その普遍可換被覆グラフ上のラプラシアンは固有値をもたない,という「固有値非存在性」に対する商グラフの幾何と被覆変換群による特徴付け;(4)非常に"大きい"第2固有値を持つ有限グラフの特徴付け;(5)スペクトル集合が単一閉区間からなる無限グラフの特徴付け,などがある.これらに共通することとして,直ちには多様体での連続類似物が見つからないような離散独自の性質に注目しながら,確率論やスペクトル論など多種多様の道具を用いてアプローチして得られたものである,という点である.これらの結果によって,多様体における研究とグラフにおける研究の類似性と相違性がよりはっきり浮き彫りになったと言え,さらに今後の多様体での研究になんらかの貢献があるものと考えられる.また同時に,無限グラフのスペクトル幾何の研究が進んだことにより,グラフ上の酔歩の被覆時間を制御するグラフの幾何の抽出などの酔歩の挙動に対する純粋数学的な貢献や,現実の巨大ネットワークの構成やその上での情報伝播の速度や信頼性といった応用面での貢献も可能になったと考えている.
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