研究概要 |
力学系のエルゴード性は,変換に伴うPerron-Frobenius作用素のスペクトルによって決定されることはよく知られている.しかし,Perron-Frobenius作用素はcompact作用素でないために,そのスペクトルを一般論を用いて,決定することは困難である.そこで,力学系に対応する母関数を構成し,さらに,その母関数のみたす再生方程式を構成する.この再生方程式から得られるFredholm Matrixによって,Perron-Frobenius作用素のnon-essential spectrumをすべて決定できることを以前に示した.このFredholm Matrixの行列式は,力学系に対応するゼータ関数の逆数になることもわかり,HofbauerとKellerの定理の別証明にもなっている. 一方で,数値積分に適した疑似乱数の例として有名なvan der Corput列が,数論的な変換に伴う力学系の逆像と見られることを発見した.このことから,一般的な力学系に対応して,疑似乱数が構成できることを示し,さらにそのdiscrepancyをFredholm Matrixを用いて評価できることを示した.とくに,1次元の場合には傾きの等しいpiecewise linear変換については完璧な対応を与えることに成功した.高次元の場合には,そのessential spectrum radiusの計算の困難さから,今のところ2次元と3次元の場合の例を構成するに留まっている.これを残りの研究期間の間に一般論を構成していきたいと考えている.
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