研究概要 |
量子統計力学モデルを記述するものとして作用素環上の流れを見ることによって、探求するべき問題の発見とその解決に努めてきた。特に対称性を挙げたのは、相転移への何らかの寄与をなすことを考えたからである。結果的には目指した事柄については成功しなかった。以下特筆するべき結果として三点あげる。 ローリン流れについて。これは統計力学モデルからは程遠い流れであるが、1コサイクルが近似的に自明という数学的には扱いやすいものである。この流れの例は知られていたが、この流れがキルヒベルグ環というクラスの環に対してはすべて存在すること示した。さらに、多くの場合にそのようなものがある意味で一意であることを注意した。(O. Bratteli, D.W. Robinsonとの共著)これは、無限テンソル積上のずらしの、いわゆるゲージ不変部分への制限に対する1コサイクル性の探求に源をもつ。 AF流れについて。これはAF環上に行列環上の流れに基づいて帰納的に定義される流れのことで、量子統計力学モデルならぬ古典モデルに対応するものとみなされる。これについての懸案の問題、果たしてAF流れから遠く隔たった量子モデルは存在するか、は解けていないが、AF流れに外見上近ければ、実際に構成上も近い、は解決した。この証明には統計力学モデルに対する物理的な性質の抽出を必要とした。 流れと、その局所的制限、その乗法子による摂動について。その間の関係はWスター環の場合は昔から知られていたが、Cスター環の場合は手がつけられていなかった。これは結局、安定なCスター環上の流れに対する乗法子コサイクルの性質を調べることに帰着する。問題は、このようなコサイクルにノルム連続性を仮定できないことであるが、関数解析的手法によって、ノルム連続なものでの弱い近似が可能であることを示した。
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