研究概要 |
ミニマイジング・ムーブメントは,それまで偏微分方程式や平均曲率流の研究において用いられていた理論をベースにDe Giorgiが提唱した数学の新しい概念である。本件の研究の目的は以下の研究に現れる諸問題を解明することであった:(A)数理物理学や幾何学におけるミニマイジング・ムーブメントの研究,(B)2階準線形双曲型方程式に対するミニマイジング・ムーブメントの研究。本研究の第1年目には,大韓民国釜山市の釜慶大学において研究集会Seminar on Partial Differential Equations and Its Applicationsが開催され研究代表者菊地が参加し成果発表及び情報収集を行った。このほかにも,本件の研究期間中は研究代表者菊地及び各分担者が各種の研究集会に参加して関連する分野の専門家らと研究連絡を行った。その結果以下のような研究成果を得ることができた。上に挙げた目的のうち大きな進展があったのは(B)に関してである。ミニマイジング・ムーブメントによる近似と古くから知られている吉田近似は同値ではないかという観測がなされていたが,研究代表者菊地が具体例を挙げて両者は全然別物であるということを指摘した。さらにその例ではミニマイジング・ムーブメントがエネルギー保存則を満たさないという例にもなっている。さらにまたこの方程式は解の一意性が成り立たないこともわかっているので,ミニマイジング・ムーブメントの存在に解の一意性が重要でないことがわかり,ここでも結果は否定的である。2階準線形双曲型方程式に対するミニマイジング・ムーブメントの構造は当初予測よりも複雑な様相を示しているのであろう。(A)についても関連する幾つかの所見を得ることはできたが,まだ道半ばという感じであり今後の研究に期待するところである。
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