研究概要 |
SDF(差の状態フィードバック)制御が成功するとされている様々な例において,SDF制御項を加えることにより得られる安定な周期軌道が,制御前の不安定システムに埋め込まれている周期軌道であるかどうかは,理論的にはもとより,数値的にもあまり検証が行われていないのが現状である。本年度の研究では,そのための数値的手続きとその理論的裏づけに近づく数値実験結果が得られた。これは,当初の実施計画で述べた3つの項目について,3つ目の「SDF制御の成功例に対する数値解析的手法を利用した理論的証明」に該当する。具体的には,SDF制御を施したレスラー方程式に対し,様々な時間遅れを与えて数値的に安定な周期軌道が得られるかどうかを確かめる。安定周期軌道が得られた場合,その周期を数値的に求める。得られた数値データの相関関係からSDF制御が成功する時間遅れの存在を見出すというものである。数多くの数値実験からSDF制御が成功するとされている時間遅れの近傍の値であれば,安定な周期軌道が数値的に得られることがわかった。そして,時間遅れと周期軌道の値が一致するときがSDF制御成功と判断でき,そのような値の存在が示唆された。以上の結果は,数値的なデータからの類推でしかなく,この手続きの理論的証明を試みている途中である。その際,精度保証など数値解析学からの手法も視野に入れつつ検討中である。 当初計画の残りの二つ「時間遅れをもつ微分方程式の周期軌道の安定条件の一般的定理の証明」および「フロッケ乗数の計算手法の開発」については,残念ながら著しい進展結果は得られていない。
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