研究概要 |
本年度の成果は大きく分けて次の二つである. 1. SDF(差の状態フィードバック)制御による周期軌道の安定化問題において,ゲイン行列として安定化したい周期軌道周りのヤコビ行列と可換性をもつような行列を採用した場合について,解析的な結果が得られた.具体的には,制御前の変分方程式のフロッケ乗数と制御後の変分方程式のフロッケ乗数との関係を与えることに成功した. 2. SDF制御の成功を判定するための数値計算手順を新たに提示した.具体的には安定化された周期軌道の周期を求め,これが時間遅れをと一致するような場合を決定すると言うものである. これらの結果は,SDF制御法の応用には従来試行錯誤が伴うものであったが,ある程度の理論的枠組みを与えたものと考えられる.得られた結果を,解がカオス的挙動を示すレスラー方程式に適用してみた.この方程式は,Pyragas (Phys. Lett. A, 1992)がSDF制御法を提案する際に用いた適用例の一つである.解析的制約により,Pyragasが採用したゲイン行列とは異なる行列(単位行列の実数倍)ではあるが,SDF制御が成功するための十分条件を具体的に提示することができた.また,このとき得られた周期軌道が,Pyragasのゲイン行列によって得られる安定周期軌道と数値的に見てほぼ等しいものであることもわかった.ふたつの異なるゲイン行列により,同じ周期軌道が安定化されるというこの事実は,SDF制御法の有効性を裏付けるひとつの大きな証拠であると考えられる. 今後の課題として,ゲイン行列の制約をはずすことや,奇数条件として知られているSDF制御法の限界を完全に証明すること,SDF制御項の時間遅れの摂動などが挙げられる.
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