研究概要 |
おとめ座銀河団にある、銀河間空間に広がって存在する星の種族の起源を明らかにするため、銀河団中心にある3領域(FCJ,CORE,SUBARU領域と名付ける)を選び、そこに存在する惑星状星雲の分光観測を行った。観測は、ヨーロッパ南天天文台のVLT望遠鏡につけられた最新鋭の多天体分光器(FLAMES)を用いた。その結果、FCJ領域で15個、CORE領域で12個、すばる領域で13個の計40個の惑星状星雲の良質なスペクトルが得られた。酸素輝線の二重線([0III]λ4959/λ5007)が銀河系外の惑星状星雲で分離して観測されたのは初めてのことであり、また、銀河団中の、銀河に属さない惑星状星雲の速度分布を求めたのもこの研究が初めてのものである。 興味深いことに、これら3領域における惑星状星雲の視線速度分布は大きく異なることがわかった。CORE領域では平均値と分散はおとめ座銀河団の銀河全体が示す値に近い。FCJ領域では巨大銀河M87のハローのような力学的振る舞いが見られた。SUBARU領域ではM84とNGC4388という二つの銀河に付随して運動している様子が見られた。これらの結果を総合すると、おとめ座銀河団はまだ形成途上にあり、力学的に非一様、非平衡な力学構造を持っているといえる。 さらに、おとめ座銀河団の約7倍遠方にあるかみのけ座銀河団に対して観測の手を広げた。これほど遠方になると、おとめ座銀河団で用いた、狭帯域フィルターによる撮像ではもはや惑星状星雲は検出不可能なため、多スリット分光撮像法(MSIS)という新しい観測手法を考案した。手法の有効性の確認を兼ねた最初の観測を行い、16個の銀河間空間にある惑星状星雲候補を検出した。これは、かみのけ座銀河団における初めての惑星状星雲の検出例である。
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