本研究は、惑星状星雲(Planetary Nebulae : PNe)をプローブとして、銀河団中で、銀河に属さず銀河間空間に広がって存在する星の種族の性質と起源を明らかにすることを目的としている。 前年度はおとめ座銀河団中の3領域(CORE領域、FCJ領域、SUBARU領域)にわたる観測結果をまとめ、これら3領域における惑星状星雲(PNe)の視線速度分布は大きく異なることを示した。 今年度は、おとめ座銀河団の約7倍遠方にあるかみのけ座銀河団に対して行った試験観測の結果をまとめた。これほど遠方になると、おとめ座銀河団で用いた、狭帯域フィルターによる撮像ではもはや惑星状星雲は検出不可能なため、多スリット分光撮像法(MSIS)という新しい観測手法を考案した。 この観測により、40個のPNeが検出され、この手法の有効性が示された。超新星を除けば、一つの星からなる天体の最遠方検出記録である。検出された40個のPNeの視線速度分布から、これらはかみのけ座銀河団に属することがはっきりした。このうち銀河間空間にある35個のPNeの平均速度はv=6352km/s、速度分散はσ=899km/sである。これら35個のPNeの速度分布には二つの構造が見られることがわかった。平均速度v(1)=6788km/sを持つ主要ピークと、v(2)〜5000km/sにある第2ピークである。主要ピークの速度は、銀河団のメンバー銀河の平均視線速度v(Coma)=6853km/sに極めて近いが、観測視野に最も近いcD銀河NGC4874の視線速度v(sys)=7224km/sとは450km/sの違いがある。これは、高密度の銀河団中心においてもなお、銀河間空間に広がって存在する星は力学的に十分混じり合っていないことを示唆する興味深い結果である。
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