銀河団中で、特定の銀河に属さず銀河間空間に存在する星の種族がある。この研究は、惑星状星雲を用いる新しい研究手法によってこの銀河間空間種族の星の性質と起源を明らかにすることを目指した。まずおとめ座銀河団において、この種族の空間分布、速度分布、金属量などの特性を明らかにする。次におとめ座銀河団とは異なる力学進化段階にあるかみのけ座銀河団においで同種族を検出し、その特性がおとめ座銀河団のものと同じか違うか、違うならどのように違うかを明らかにすることが直接的な研究目的であった。 おとめ座銀河団においては、銀河団中心にある3領域を選び、そこに存在する惑星状星雲の分光観測を行った。これら3領域における惑星状星雲の視線速度分布は大きく異なることがわかった。このことから、おとめ座銀河団はまだ形成途上にあり、力学的に非一様、非平衡な力学構造を持っていることがわかった。 さらに、おとめ座銀河団の約7倍遠方にあるかみのけ座銀河団に対して観測の手を広げた。これほど遠方になると、おとめ座銀河団で用いた、狭帯域フィルターによる撮像ではもはや惑星状星雲は検出不可能なため、多スリット分光撮像法(MSIS)という新しい観測手法を考案した。最初の観測で、40個の惑星状星雲が検出され、手法の有効性が示された。このうち、銀河間空間にある35個の速度分布には二つの成分が見られ、かみのけ座銀河団のような進化の進んだ高密度の銀河団中心でも、なお銀河間空間にある星は十分混じり合っていないことを示唆する興味深い結果が得られた。なお、これはかみのけ座銀河団で惑星状星雲を検出した最初の例であり、超新星を除けば、一つの星からなる天体の最遠方検出記録である。
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