楕円銀河は宇宙で最も普遍的に存在する天体である。それにも拘らず、その起源は謎に包まれている。宇宙の階層的構造形成論に従えば、楕円銀河のように巨大質量の天体はより小さな銀河が合体して形成される。そしてその時期は赤方偏移がz<0.5という比較的最近であるとするのが標準的な理論による予測である。本研究ではすばる望遠鏡の主焦点カメラによる光学的撮像データとESO(欧州南天天文台)のNTT望遠鏡による近赤外撮像データを解析し、スペクトルエネルギー分布の特徴から赤方偏移が1<z<3にある銀河を選別した。この研究でB、z‘、Kバンドを組み合わせるとz>1.4にある銀河を選択的にほぼ100%の確率で漏れなく抽出できることを示し、これらの銀河をBzK銀河と命名した。BzK銀河にはダストに覆われて活発に星形成を行っている銀河と、既に星形成を終了したと思われる銀河との二種類があり、前者をsBzK銀河、後者をpBzK銀河と呼んで区別することを提唱した。これらはこれまで全く知られていなかった新しい種族の銀河である。sBzK銀河の中には星質量が1000億太陽質量を超えるもの、星形成率が100太陽質量/年以上のものが多数あり、その平均の赤方偏移はz〜2である。また、これらの銀河の空間分布を調べると密集している様子が確認でき、その度合いはz〜1におけるERO(極赤色銀河)や近傍宇宙における楕円銀河のそれに近い。これから推測して、sBzKが楕円銀河の先駆的天体である可能性ははなはだ高い。即ち、研究の一年目にして、形成途上にある楕円銀河の現場を捉えたと確信するに至った。理論的予測ではz〜2でこのような巨大な楕円銀河の先駆的天体が存在する理由がないことを思うと、本研究のこれまでの結果が銀河の形成と進化の理解に与えるインパクトははなはだ大きなものがあると言えよう。この研究の重要性が認められ、すばる望遠鏡で9夜、VLT望遠鏡で6夜の観測時間が採択された。近赤外分光によって、水素のHα、Hβ輝線の強度や酸素の輝線の強度を測定し、星形成率や金属量の見積もりができる予定である。これによって、さらに、BzK銀河が楕円銀河の先祖であるか否かを別の側面から考察できよう。また、pBzK銀河はz〜2で既に星形成を終えている銀河である。ということは楕円銀河はz>2でも既に形成されていたのではと考えられ、形成現場を更に遠方に求めることも視野にいれる必要があると認識している。
|