研究概要 |
本研究の初年度においてすばる望遠鏡の主焦点カメラの広視野を活用して、形成途上にある楕円銀河候補(zBzK, pBzK銀河)を容易に検出する方法を考案し、第二年度においてはこれらの銀河を多数検出することに成功した。その測光学的特性から、sBzK銀河は星形成をまだ活発に行っている大質量の銀河であり、その星質量、空間分布密度、クラスタリングなどは近傍の楕円銀河に匹敵する。また、pBzK銀河は既に星形成を終了した銀河であるが、その星質量、は近傍の楕円銀河と同等であるものも、空間分布密度、クラスタリングはsBzK銀河よりも強く、近傍の銀河団における楕円銀河のそれに匹敵する。これらの結果から、BzK銀河が形成途上にある楕円銀河であり、sBzKからpBzK銀河に遷移し、更に、静的に進化する楕円銀河となると予想される。これらの結果を踏まえて、計画の最終年度となる本年度は、BzK銀河の分光学的な特性を明らかにすることに主眼を置いた。すばる望遠鏡のOHSとCISCOを用いてsBzK銀河の近赤外分光を行い、ガスの金属量と星生成率を求めたところ、星生成率は測光学的に求めたものとほぼ一致した。一方、ガスの金属量は星質量の大きなもの(近傍の巨大楕円銀河に匹敵するもの)は太陽の値とほぼ同じであるが、低質量のものは近傍の楕円銀河の星の金属量よりも低く、いわゆる、楕円銀河の質量-金属量関係は1.4<z<2.5の時代にあっては未だ形成途上にあることを発見した。これは楕円銀河がこの時期に急激に成長するという本研究で得られた知見を強く支持するものである。また、最も明るいsBzKをVLT望遠鏡のSINFONIで面分光することに(高赤方偏移銀河として)世界で初めて成功し、意外にもこの銀河では銀河系に匹敵する大きさと質量、回転速度を持つ円盤が発達しており、中心のブラックホールにガスが流入してバルジの形成を行っている兆候を見出した。この銀河の円盤が安定であるか、それともこの銀河はこのあとで他の銀河と合体して楕円銀河になるのか、楕円銀河の形成が想像する以上に複雑であることを示唆する興味深い結果となった。本研究で得られた知見に基づけば、楕円銀河の形成と進化について以下のようにまとめることができる。すなわち、楕円銀河の形成はz〜2の宇宙でもっとも顕著に起こる。それ以前は質量のアセンブリがまだ十分でないために、星形成率も低い(ガスの量が足りないから)。このような楕円銀河はsBzK銀河として観測され、その後はpBzK銀河、ERO銀河となり、ハッブル系列の楕円銀河として落ち着く。この進化のタイムスケールは銀河の環境と質量に依存し、銀河密度の高いところでは、より早く質量の集積と星形成のピークが起こる。したがって、フィールドではz〜2が楕円銀河の形成現場であるが、銀河団に相当するところではより遠方でもダストに覆われた星形成途上の楕円銀河が存在するであろう。これらはサブミリ銀河や電波銀河として観測される。楕円銀河の形成現場は矮小銀河の場合にはより近傍となるから、z<1での形成現場を発見する必要がある。
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