研究概要 |
国立天文台によって開発された高精度位置天文VLBIネットワークVERAを用いて、太陽系から最も近い巨大分子雲であるオリオン座・いっかくじゅう座分子雲複合体にある星形成領域の水メーザーと呼ばれる強力な電波源をモニター観測し、過去の観測の10倍以上の高精度で年周視差と固有運動を計測する。それにより、オリオン座分子雲といっかくじゅう座分子雲の距離を誤差1%以上の精度で決定し、これまでは不可能だった分子雲複合体の3次元立体構造・3次元運動の解明を目指す。 初年度には、オリオン座・いっかくじゅう座分子雲複合体の星形成領域20天体程度のサーベイ観測を行い、4天体(Orion KL,OMC-2,HH1,Mon R2)でVERAによる相対VLBI観測が可能であることを確認した。そこで、これらについて月に1回のVERAによるモニター観測を開始した。2年目には、初年度からのモニター観測で明らかになった相関器モデルの再計算について、補正のためのソフトウェアを開発し、観測天体で最も明るい水メーザー源であるOrion KLについて重点的に解析を行った。その結果、大気による遅延の効果を補正することによって水メーザー源のイメージの質、位置決定精度が飛躍的に向上した。現在までに、Orion KLの年周視差は2.3mas、距離に換算すると430pcであることが初めて得られている。この結果は、過去のOrion KLの距離測定(480pc)と矛盾はしない。ただし、年周視差計測結果にはまだシステマチックな誤差が含まれている可能性もあり、さらなる補正の検討、継続的な観測による年周視差の再現性の計測を行ったうえで、査読論文として投稿予定である。年周視差計測は、測定期間が長ければ長いほど精度が向上するため、本研究の終了後もモニター観測は継続される予定である。
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