今年度は、素粒子標準模型を超える模型の候補として、ヒグスレス模型について詳細な研究を行なった。ヒグスレス模型にはスカラーヒグスの自由度は導入されないにもかかわらず、この模型は、電弱ゲージ粒子散乱のユニタリティー条件をきわめて高エネルギーまで満たすことができる。ヒグスレス模型は、5次元ゲージ理論を用いて記述されることが多いが、5次元方向を「脱構築」(deconstruction)することにより、ほぼ等価な4次元のゲージ化された非線形シグマ模型とみなすことができる。ヒグスレス模型の現象論的研究をおこなうには、対応する非線形シグマ模型のダイナミクスを正しく理解することが極めて重要である。 前年度の研究でわたしたちは、フェルミオン自由度がブレーン上に局在化しているタイプのヒグスレス模型はすべて、電弱ゲージ粒子の性質の現在の精密測定に矛盾するか、あるいはユニタリティー条件が極めて低いエネルギーで破れていることを示した。今年度はこの研究を拡張し、フェルミオン自由度がバルク上に拡がっている場合について詳細な研究をおこなった。 きわめて面白いことに、フェルミオン自由度がバルク上に拡がっている(fermion delocalization)場合は、電弱精密測定に矛盾しない模型をつくることが可能であることを示すことができる。われわれはさらに、バルク上にどのようにフェルミオン自由度が拡がっていれば電弱精密測定と矛盾しない模型が構築できるかという問題に取り組み、この問題への解答をideal delocalizationという形で与えた。 このideal delocalizationの場合、通常の電弱精密測定では模型への実験的制限をうる事はできない。また、この場合、ヒグスレス模型にあらわれる重いゲージ粒子がいわゆるfermiophobicとなるため、CDFなどにおける重いゲージ粒子探索による制限もきわめてゆるいものとなってしまう。われわれはこのケースについてより詳細な研究を行ない、LEP2などによる電弱ゲージ粒子3点結合の測定がideal delocalizationヒグスレス模型にノントリヴィアルな制限を与えることを指摘した。
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