非線形シグマ模型に基づいた標準模型を超える模型として、脱構築ヒッグスレス模型の研究を引き続き行った。この模型はスピン0のいわゆるヒッグス粒子を含まないが、電弱対称性の破れ、すなわち素粒子質量の起源を説明することのできる面白い可能性である。標準模型ではヒッグス粒子の交換が縦波電弱ゲージ粒子散乱のユニタリティーを保っているのに対し、ヒッグスレス模型においてはスピン1のカルッツァ・クライン粒子の交換が縦波ゲージボソンのユニタリティーを保っている。 本年度の研究では、カイラル摂動論に基づいた系統的な方法を用いて、ループレベルの輻射補正まで含め、現在の電弱精密測定がこの模型にどのような制限を与えているかを詳細に調べた。研究の結果、ユニタリティーと矛盾しないパラメータ領域で、電弱精密測定ともまったく矛盾しない模型が実際に構築可能であることが示された。また、スピン1のカルッツァ・クライン粒子とクォーク・レプトンとの相互作用について、非自明な制限を与えることができた。これらの成果は、LHCなどの加速器実験でヒッグスレス模型を検証するうえできわめて重要な意味を持つものである。
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