研究概要 |
本研究は、宇宙における第一世代の星、すなわち、重元素を含まない(種族IIIともよばれる)星の正体を、銀河のハロー星や銀河団ガスなどの宇宙の進化の初期に形成された天体の化学組成を説明する試みによって、理論的に解明することを目的とする。特に着目したのは、SUBARU望遠鏡によって2004年に発見された、金属量が太陽の20万分の1以下という極端に少ない星の化学組成のパターンである。この金属量は新記録である。この星はFeに対してCとNが太陽組成比より極端に大きい点は、もう一つの例の星と同じだが、Na-Mg-AlとFeの比が、太陽組成比より10倍以上大きいことが大きく異なる。このような特異なパターンには、種族IIIの星の元合成が大きく反映されていると思われる。今年度は、第一世代星の候補の一つとして、太陽質量の500-1000倍の巨大質量星が進化、重力崩壊して中質量ブラックホールを形成する過程で、どのような元素を放出するかを、2次元ジェット状爆発モデルに基づいて明らかにした。そして、その元素合成の特徴と上記のような観測の説明に適用した。 1.酸素の相対比([O/Fe],[O/Si])が極端な金属欠乏星の化学組成より小さいので、そのままでは、金属量が極端に少ない星の化学組成は、説明ができない。しかし、ブラックホールの質量次第では、鉄の生成量は減り得る。 2.完全に飛び散る電子対生成型超新星に比べると、重元素の生成量は少なく、様々な観測事実をよりよく説明することができる。 3.中質量ブラックホールが観測されたM82の高温ガスや、銀河団ガス、銀河間ガスの化学組成など、通常の星だけでは説明できない組成を説明することができる。 4.この質量範囲の星は、これまで宇宙の化学進化の研究ではほとんど考慮されてこなかったが、第一世代星と巨大・中質量ブラックホールの形成との関連を考える上で、考慮にいれるべきである。
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