本プロジェクトでは、素粒子の現実的な統一理論の構築に向けて、標準模型セクタと「赤外固定点をもつ強結合理論」のセクタを結合させる可能性を取り上げている。研究項目として、素粒子の世代混合に関する現象論的な側面と、超対称性の破れの性質に関する理論的な側面があるが、現在のところ、主に後者にターゲットを絞って研究を進めている。得られた主な成果は以下の通りである。 1.強結合セクタが脱結合(decouple)することを仮定した上で、その脱結合の際に現れる閾値補正を計算することについては、我々の予想を確立することを目指し、いくつかのクロスチェックを行っている。別グループによる摂動計算(2-loop計算)などとの具体的な比較の結果、これまでのところ、あからさまな矛盾は見つかっていない。 2.仮定されていた強結合セクタの脱結合機構について、小林氏(京都大)、寺尾氏(金沢大)、山田氏(新潟大博士後期課程在学中)との共同研究で取り上げ、脱結合の質量スケールを、自らの強結合ダイナミクスによって生成する可能性を指摘した。我々の提案したメカニズムでは、強結合セクタにゲージ一重項場を導入し、その真空期待値により、強結合セクタ場が質量項を獲得する。その際の特徴は、一重項場の自己相互作用定数が強結合ダイナミクスによるべき抑制を受けるため、得られる真空期待値のスケールは、10TeV程度の超対称性の破れのスケールから桁外れに大きくなることである。 3.真空期待値はスカラーポテンシャルによって決定されるが、古典近似のポテンシャルはくりこみのエネルギースケールに大きく依存してしまう。この問題を解決するために、有効ポテンシャル自身をくりこみ群で改善し、自己整合的に真空期待値を決定した。 以上のようにして、強結合セクタの望ましい脱結合を実現するメカニズムが得られた。現在は、閾値補正の公式をこの場合を扱えるようにさらに拡張することを検討している。
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