研究概要 |
208Pbを標的原子核とする,300MeVの陽子弾性散乱の実験データ(反応断面積と散乱微分断面積の1つ目の谷の位置)に対して,陽子の分布については電子散乱で決定された電荷分布を用い,中性子の分布についてはWoods-Saxon型の密度分布を仮定して,その2つのパラメータを実験データから決めることによって,208Pbの中性子分布を求めた論文が研究発表の項目に掲げてある論文である.実験値の誤差の範囲で分布のパラメータの値は変動し,それに伴っては大きく異なる密度分布が得られている.オーバーオールな実験データの再現性はRMFTの結果がもっとも良いが,後方のanalyzing powerに限って再現性の良い分布も存在した.ここで,前方のanalyzing powerはどんな中性子分布を用いても再現性の良くなさにはほとんど変化が無いことが示されている. 前方のanalyzing powerの再現性の問題は,入射する陽子のエネルギーが200MeVより小さくなると顕著に現れるので,50-200MeVのエネルギー領域で陽子-原子核弾性散乱の実験データ(散乱微分断面積とanaryzing power)がある標的原子核58Niや40Caについて,NN散乱振幅のバリエーション(IA1,IA2)や媒質効果を考慮した有効相互作用(相対論的,非相対論的)を用いて計算を行った.この問題に関しては,現在,結果の解析中である. 更に,CaのアイソトープについてA=40を大きく超えるA=60-74の原子核に対してRMFTによる核子の密度分布が得られており,これらを標的とした陽子-原子核弾性散乱の観測量の計算をRIAに基づいて行っている.尚、前方でのanalyzing powerが問題とならなない様に,陽子の入射エネルギーは300MeVに選んである.この種の原子核で興味深いのは,陽子の密度分布と中性子の密度分布の大きな違いが期待されることである.近い将来これらのCaアイソトープに対する実験が行われれば,それらの実験値と比較して陽子密度分布とは大きく異なる中性子分布の様子や,208Pbではあまり顕著には現れていない中性子スキン等の様子が明らかにされると期待できる.
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