年度前半においては、時間発展する非可換空間上の場の理論の構成を行った。非可換空間としては、最も取り扱いの易しい非可換空間であるところの、SU(N)対称性を持っている非可換複素射影空間(非可換二次元球面を含む)を扱い、そのSU(N)対称性を保つような時間発展を定式化し、時間発展する非可換二次元球面上のスカラー場、フェルミオン場、ゲージ場の理論の構成を行った。特にゲージ対称性に関連して、保存カレントの存在が本質的であるが、非ユニタリーな離散的時間発展であるにもかかわらず、保存カレントを具体的に構成することができ、チャージの保存則が成立することを示した。また、エネルギー・運動量保存に関連する保存カレントの存在も示した。この研究により、時間発展する非可換空間上の物質場を含むゲージ理論が無矛盾に定式化できること、また、重力場との無矛盾な結合の可能性が分かった。 年度後半においては、非可換空間の時間発展を、物質場の存在に依存してダイナミカルにする研究を開始した。これにはまず、時間発展する非可換空間上の重力場の自由度を理解し、パラメータの古典的領域において一般相対性理論と矛盾しないような物質場との結合を定式化する必要がある。一般相対性理論においては重力場の自由度は空間上の幾何の自由度と同等であるが、非可換空間は代数的に構成されているため、その上の幾何は自明ではない構成になっている。従って、この方向への端緒を得るため、非可換空間上の幾何を捉える有効な方法を考案した。連続理論における熱核漸近展開は、幾何学的量をその係数に持つことが知られている。非可換空間の場合、空間の微小スケールにおける連続多様体との違いから、漸近展開は有効ではない。しかし、中間スケールでの近似的漸近展開を扱うための有効な方法を提案し、それによって、非可換空間の幾何を正確に捉えることが出来ることを示した。
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