前年度までの研究により、時間発展する非可換空間上にどのようにして、素粒子現象を記述する物質場やゲージ場の理論を構成するかについて、特に対称性と電荷保存に注目して、その構成が実際可能であることを示したが、この一連のモデルでは、非可換空間の時間発展は与えられたものとされており、物質の存在は非可換空間の時間発展に影響しない。しかし、一方、実際の宇宙の時間発展を良く記述している一般相対性理論では、宇宙の時間発展は物質の存在が影響を与える動力学的時間発展である。従って、宇宙の時間発展を非可換空間の時間発展として記述するためには、一般相対性理論のファジー空間(量子論的空間の総称)版を作る必要がある。 一般相対性理論は、一般座標変換不変性を主原理とする理論である。従って、ファジー空間の一般座標変換が何であるかを考え、この変換についての対称性を主原理として理論を構成すれば、ファジー一般相対性理論が得られると期待される。ファジー空間は、それ上の場(関数)の代数により決められるので、その基本的力学変数は、その代数を決める三階テンソルと考えられる。またこのとき、一般座標変換はその三階テンソルについての一般線形変換に対応することが分かる。今年度の主要成果は、この一般的アイディアを述べ、一般線形変換不変な一連の三階テンソルモデルを、動力学的ファジー空間のモデルとして提案したことである。最も簡単な具体例として、二次元非可換球面が、このモデルの古典解として実現されることを示した。 今年度の研究成果は二編の論文にまとめて発表したが、出版予定ではあるものの出版号がまだ決まっていないため、次ページの研究成果には書かれていない。
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