近年の観測技術の発展により、我々の宇宙の過去の時間発展の様子が詳しく調べられ、宇宙のほとんどが暗黒物質と暗黒エネルギーという未知のもので構成されていることが明らかになりつつある。特に、暗黒エネルギーの正体は、素粒子論においても、宇宙項問題や真空エネルギーとも呼ばれる長年の未解決問題である。恐らくこの問題の解決には、重力の古典論である一般相対論を超えた、新たな量子重力の理論が必要となると考えられる。 一般相対論は、リーマン幾何学の時空概念に基づいており、座標時空間上の滑らかに変化する計量場を動的変数とする理論である。一般相対論を標準的方法で量子化すると、計量場が各点ごとに存在することから来る制御不可能な発散が計算に現れ、意味をなさない。また、一般相対論と量子論を合わせた思考実験からは、観測可能な限界最小長が導かれ、連続的で滑らかな時空間というよりは、何らかの構成要素の集合体であるような時空間という可能性が示唆される。そのような量子論的時空間として、非可換空間などの一般化であるファジー空間と呼ばれる概念がある。私は、本研究課題において、動的なファジー空間として、量子重力の理論が構成できないかを探った。ファジー空間は、座標系ではなく、その空間上の関数の積の構造によって定義される。従って、各ファジー空間は、関数の積を決める3階テンソルにより定義されるので、私は、3階テンソルの動的理論をファジー空間の動的理論として提案した。このような3階テンソルモデルは、次元や位相に関係なく動的空間を記述する背景非依存な理論であり、また、主に数値的に調べたところ、このモデルが物理的に意味のある様々なファジー空間を古典解として生成することや、古典極限で一般相対論を再現することなど、量子重力として有望であることを示す様々な結果が得られた。
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