3つの運動学的変数の関数である一般化パートン分布に依存する高エネルギー散乱断面積の解析には、一般化パートン分布を適当な形でパラメター化する必要がある。この目的で最もよく使われるのが2重分布と呼ばれる量を用いたパラメター化であるが、その中にD-termと呼ばれる未知の量が現れる。深部仮想コンプトン散乱のある種の観測量、例えば、核子を標的とする電子と陽電子による実光子の生成断面積の入射粒子の荷電による非対称性等の量は、このD-termの大きさに非常に敏感であることが指摘されている。私達は、カイラル・クォーク・ソリトン模型の枠組みで、これまで理論的に信頼できる評価が存在しなかった核子のD-termを理論的に解析し、1/Nc展開の主要項であるアイソスカラー部分だけでなく、1/Nc展開の補正項であるアイソベクトル部分に対しても信頼できる理論的予言を与えた。 最近、Anselminoらは、偏極核子を標的とする高エネルギー準包括散乱過程における生成中間子の方位角非対称性と、高エネルギー研のBelle Collaborationで測定された電子・陽電子消滅による2ハドロン準包括生成過程の方位角非対称性の同時解析を通じて、transversityと呼ばれるカイラリティ奇の分布関数に対する初めての実験的情報を引き出すことに成功した。私達は、transversityと縦偏極分布関数を対比しつつ注意深い解析を実行し、それらの最大の違いが、$d$-クォークの分布に現れていることを指摘した。更に、その違いの原因はアイソスカラー型のテンソル電荷が、対応する擬ベクトル電荷程小さくないという事実に求められること、そしてまたこの事実が核子のスピン構造の理解に重要な役割を果たすことを明らかにした。
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